熊谷賢一 "歌劇「沖縄」名古屋公演を見て"(1970年)
歌劇「沖縄」の名古屋公演二日間を見て深い感銘を受けました。
昨年も、中央合唱団創立20周年記念演奏会を名古屋でききましたが、その音楽的水準は数年前にくらべると、質・内容ともはるかに向上していることを強く感じました。
うたごえ運動のなかで、年間数千曲の創作曲が全国的規模で作曲され、歌われてきたことが、質・内容を高め、さらに運動を前進させてきたのでしょう。
そうした活動の総結集としての歌劇「沖縄」が、日本の大衆的な音楽運動の大きな成果の一つであることは、いうまでもありません。
だがその評価は、そういう“記念碑”的意義や、十数年前には“わずか8小節しか作曲できなかったうたごえ”がオペラまでも作れるようになった、ということにとどまるものではありません。
歌劇「沖縄」は“うたごえ運動”というワクをこえて、明治から100年の日本の体制内で育った既成の日本の主流音楽界がもつ体質や常識では考えられない、また、成し得ないだろう方法と内容によって、生み出されました。
このことは、「音楽のあり方」にたいする一つの実証であり、既成の音楽界にたいする一つの挑戦(?)であるとさえ思うのです...
歌劇「沖縄」の大きな成果をより国民のものとするために、今後の公演を通じて一つの完成を得、その成果を土台に、さらにすぐれた第二作を創造してほしいと思います。
歌劇「沖縄」は、専門家を含めて多くの人たちに、さまざまな問題を提起しました。各自がその問題提起を出発点として、音楽の多様な発展をうながすことに、大きな期待を持っています...
※日本共産党機関紙「赤旗」1970年4月28日付 第8面より抜粋